大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)4955号 判決

〔抄 録〕

原審第三回公判において、検察官が、刑事訴訟法第三百二十二条第一項前段の規定に基づき証拠調の請求をした検察官及び司法警察員に対する被告人の自白を内容とする供述調書二通については当時、未だ、強制、拷問又は脅迫等刑事訴訟法第三百十九条所定の右事由によつて、該自白の任意性(自発性)に疑を止むべき合理的な特段事由の窺い得べきもののなかつたこと(殊に被告人は、原審において、検察官に対する供述調書の内容については、寧ろ却つて、被告人の自発にかかる供述であることを肯定する陳述すらしている)が、認め得られるに拘わらず、原審が敢てこれが証拠調請求を却下したこと及び原審第五回公判において、検察官が刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号後段の規定により証拠調の請求をした検察官に対する渡辺嘉久の供述調書についても、果して、その内容が、公判期日における同人の証言と相反するか又は実質的に異つた供述であるか何うかを確めるため、また、公判期日における証言よりも信用すべき特別の情況が存するか何うかを判断する一資料ともする右訴訟法所定の必然的な必要から、少くともこれにつき刑事訴訟法所定の適式な証拠調を為すべきであつたにも拘らず、当時特に、他にこれが証拠調請求を排斥すべき確実な特段の事由を認め得べきものもなくして、敢て、たやすく、これが請求を却下したことは、すなわち、孰れも、その訴訟手続において法令に違背するの過誤を冒したものと言うの外なく従つて、この点に関する限り、所説第一及び第二点の論旨は、孰れも洵に正当であるが、然し仮に、原審において、検察官に対する渡辺嘉久の所論供述調書及び被告人の所論供述調書につき、それぞれ適式な証拠調が施行され、その各証拠能力が認められたとして検察官主張にかかる事実誤認の論旨につきその理由ありや否やを審案することとしても、即ち検察官が、刑事訴訟法第三百二十八条の規定により公判期日における証人渡辺嘉久の供述及び被告人の原審公判における供述を争うため提出して受理された司法警察員に対する渡辺嘉久の供述調書三通及び被告人の各所論供述調書を夫々適法なる証拠として検討しても右各記載内容に徴し一応は、被告人の本件罪責を肯認し得べきものがないではないが本件記録並びに原審における証拠及び当審における事実取調の結果を綜合して具に検討するときは、渡辺嘉久の検察官又は司法警察員に対する各供述及び被告人の供述中少くとも被告人の不利益に帰すべき部分は、前説示の如く、その自発的な供述たることを認め得るものがあるにも拘わらず、なお、孰れもその真意に出でない供述でないとも言い難いものがあつて、所論被告人の言動が果して渡辺嘉久に対し起訴状記載のような犯行をなさしめんとする真意に出でたものと断ずるには充分でない。即ち被告人に対する本件公訴にかかる犯罪事実は、未だもつてこれを確認するに足る証拠がないという外はない。果して然らば、原審における訴訟手続に前説示の如き法令の違背があるにもかかわらず、これが違背あるの故をもつて、本件公訴事実が証明十分ならざるものとして無罪を言渡した原判決に影響を及ぼすことの明らかなものがあると言うを得ないから、結局原判決は相当であつてこれを破棄するに由がない。所論はすべて採用し難く、論旨は孰れもその理由がない。

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